涙が 出てこない

年をとったせいか、よく涙がでる。
何でもない歌詞の一節だったり、B級映画の1シーンだったり、とにかくなんでもないところで、すぐにウルウルする。
年をとると、それまでの経験から、過去の自分の感情と照らし合わせて、涙が出やすくなる、というようなことを聞いたことがある。
だから、卒業式ともなると思わず泣いてしまう。
今までは、たいていそうだった。なので、卒業式に、ハンカチ・ちり紙は必携、アイラインは控えめに上まぶただけ・・・など、今年もそれなりの「泣く」覚悟で式に臨んだ。

今年は、3年のHR担任である。
卒業式の2,3日前から、スポーツ大会や、文化祭、クラスマッチなどでクラスの生徒たちを撮った写真に、コメントを添えて、教室に張り出す準備をする。写真を選びながら、ウルウル。写真を貼ってウルウル。コメントを書きながら、またウルウル。
卒業式前日、私の名刺の裏に、クラスの一人一人にメッセージを書く。またウルウル。
もしかしてこりゃ卒業式中、ぐずぐずやっているかも。(私はまだ花粉症を発症していないが)

式が始まる。
式辞や祝辞が終わり、送辞が終わる。と同時に、在校生の「蛍の光」スタート(なんとtraditionalな)。校長先生が歌い始める。私たち職員も歌う。なんか、鼻の奥がツーーーンとしてきた。おっとキタ??でも涙までいかない。
卒業生代表の答辞が始まる。自分のクラスの生徒が代表でないせい??とてもいい答辞なのに、涙までいかない。卒業生の「仰げば尊し」。リハーサルよりも声が出てる。なかなかいいじゃん。でも涙までいかず。校歌のあと、卒業生退場。だいたい毎年ここで涙が出る。職員の1人として、皆で立って拍手をしながら退場する生徒を見送る。あれ。涙が出てこない。あれ。どうした。大概、ここで泣きたくないのに涙出てくるじゃん。

でも、涙が出てこない。

ああ、そうか。

悔いがないのだ。

私は、HR担任として一緒にこの1年過ごした生徒一人一人に、悔いがないのだ。

年度初めに、男子が多いこの理系のクラスを持つことになった時に、とても不安だった。果たして自分が生徒たち一人一人に一生懸命になれるのか、私でいいのか・・・。でも、結果的には一生懸命やっていた。力不足だろうけど、今の自分のできることはすべてやった。やり尽くした。そう、悔いはない。

別れるのは、もちろん寂しい。
でも、未練はない。

ああ、1つのことをやり抜くと、こういう心境になるのか・・・。

生徒たちは号泣する私の姿を期待していたようだが、私は教員生活20年にして、新たな境地を垣間見たような気がして、別の意味で感動していた。涙は出ない。

この1年、研修らしい研修に出ていなかったが、1月の末と2月の中旬にやっと参加させていただいた。一応いずれも「英語教育」の研修会だったが、いずれも主なテーマは伝統的な教科教育法ではなく、クラスマネージメントや生徒のモチベーション、メタ認知、といった教室で授業を上手く展開する前提となるものについてであった。かつて「英語教育」の研修会は、もっと直接的な授業手法とか、その実践事例の発表とか言語習得論や評価など、大学の教職課程でやった教科教育法の延長上にあるものが主だったように思う。生徒理解とか、生徒と教師の間の信頼関係とかは、どちらかというと教科教育を通じて養うような扱いだった。

いわゆる「進学校」においても、効果的な授業を展開するためには、上記の要素は欠かせない。前提としての「信頼関係」がなければ、上手く授業は展開しないと、近年つくづく感じるようになった。私が、今年、授業を展開する上でのストレスはあまり感じなかったのは、人間関係が構築されるにつれて、授業がスムースに行くようになり、結果として、クラス全体が授業によく取り組んでくれたおかげだ。

もはや、教科指導を通じてのみの信頼関係の構築は不可能に近いのかもしれない。関西大学の竹内理先生によると、生徒の学習へのモチベーションを高めるためには、机間巡視などの授業中の生徒への働きかけだけでなく、「授業が始まる少し前に教室に行って雑談をする」など、授業外の活動も積極的に行い、コミュニケーションをとって、生徒理解につとめ、信頼関係を構築する必要があるらしい。英語教育の前に、まずは、人間関係。そんな時代がすでに来ている・・・そんな感じを肌で感じるのは確かだ。

いずれにせよ、卒業生諸君、卒業おめでとう。今度会うときは、大学生かな。時々は大学での英語教育の様子も教えてね。
ああ、それから、いただいた花束、大きくて持って帰るのが大変だった。ホントにどうもありがとう。うれしかったです。
また母校に寄って下さい。
大人になったキミたちと、今度一緒に飲んだら、ホントに号泣するかもしんない。

(2009年 3月)

追記: いただいた花束の、花が全部開いて気がついた。全部「ピンク」色だったんですね。ホントに最後までお心遣いありがとう。
皆さんもどうぞひとりひとりの美しい花を咲かせてください。花束の花、種類も違えば、つぼみが花開く時も違い、みなさん一人一人の未来に思いを馳せました。
私もがんばります。